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「エジプト」な「X」—あるいは、1932年の奇跡 [エラリー・クイーン]

現在は「百年に一度の不況」と言われていますが(;>_<;)、1932年という年も世界恐慌がピークに達した年でありました。
そんな暗い時代、ミステリ史上に「奇跡」が起こりました。
1932年とは、アメリカの作家エラリー・クイーンが4作の長編ミステリを発表した年でした。
それは、単に1人(といっても、実際には2人)の作家が4作もの長編を書いたという意味ですごい、だけでなく、その4作品のいずれも本格ミステリに残る傑作、という意味で、ミステリの長い歴史に偉大な足跡を残したのでした。

それから77年後。
2009年の日本において、そのうちの2作『エジプト十字架の謎』『Xの悲劇』が新版ないしは新訳で相次いで出版されたのは、単なる偶然でしょうか?
(ちなみに、もう2作は『ギリシア棺の謎』『Yの悲劇』。)


 「新版」で出たのはこちら↓

エジプト十字架の謎 (創元推理文庫)

エジプト十字架の謎 (創元推理文庫)

  • 作者: エラリー クイーン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/01/09
  • メディア: 文庫
ウェスト・ヴァージニアの田舎町アロヨで発生した殺人事件は、不気味なTに満ちていた。死体発見現場はT字路。T字形の道標にはりつけにされた、首なし死体の外貌もT…。興味を抱いたエラリーは父とともにアロヨへ趣き、検死審問に出席したが、真相は杳(よう)としてしれない。そこに、類似の殺人を知らせる恩師からの電報がエラリーのもとへ届く。第一の事件から遠く離れた現場へ駆けつけたエラリーが見たものは、トーテム・ポールにはりつけにされた首なし死体であった。エラリーの精緻な推理が明かす、驚天動地の真相とは? スリリングな犯人追跡劇も名高き、本格ミステリの金字塔。
というのが、「新版」の1ページ目に書かれているあらすじ。

「よくぞ、改訂してくれました(^^)//""""""パチパチ」
というのが、まず思った感想。
そうです! 新版は単に「文字が大きくなった」(& ページ数が30ページほど増え、値段も上がったw)だけではないのです!

・・・というのも、こちらのページにも書いているのですが、旧版(Yuseumの持っていたのは、1997年の64版)の1ページ目にあるあらすじには、ほとんどネタバレに近いことが書かれていたのです。
エラリー・クイーン初読がこの作品だったYuseumにとって、そのあらすじは興を殺ぐのに充分でした。
ネタバレなしの範囲で、ちょっとピックアップしてみましょう。
(ネタバレにつながる部分は伏せ字にしています。)

Tの字形のエジプト十字架に、次々とはりつけにされ、死んでいった小学校長、百万長者、●●●(中略)。エラリー・クイーンはついにさじを投げた。しかし、最後にいたって見つけた、×××から、もつれにもつれた事件の謎は快刀乱麻一挙に解決された。(以下、略)

最初の伏せ字●●●は被害者の素性を書いているのですが、そこまで書いてはダメです(‐_‐)

でも、ここまでは百歩譲って許せますが、次の伏せ字×××はこの一連の事件を解決に導いた重要な手がかり!
しかも、これが提示されるのは、物語が9割ほど進行して、いよいよ「読者への挑戦」が出される直前のタイミング。
×××といえばこの作品、というくらい有名なロジックなので、未読の方はネタバレされる前に読みましょう!

なお、「新版」では他にも種々の改訂が行われています。
一例を挙げると、
  • 「検死裁判」という言葉が「検死審問」という言葉に置き換わっている。
  • 最初に挿入されていた地図が、より見やすいものになっている。
  • 文章中の訳注を減らして、より読みやすい形にしている。
    例えば、「エジプトのパロ(王)」→「エジプトのファラオ」
    「何千というpapyri(古文書)やstelai(古碑)を」→「何千というパピルスや古碑を」
    「キャヴィア(魚のはらごの塩漬け)を注文・・・ベルーガ(カスピ海あたりの河の白チョウザメのキャヴィア)だの、赤(鮭のイクラ)だの。でも、たいていは極上の黒いやつでした。」→「キャビアを注文・・・白ちょうざめだの、赤いのだの。でも、たいていは極上の黒いやつでした。」
  • その他、誤記の訂正。差別的な表現の改訂。
  • 「新版」の解説は山口雅也さん。

そんなわけで、Yuseumも実に10年ぶりに再読してみました[本]
追記した感想はこちら。


「新訳」はこちら↓

Xの悲劇 (角川文庫)

Xの悲劇 (角川文庫)

  • 作者: エラリー・クイーン
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2009/01/24
  • メディア: 文庫
満員電車の中で発生した殺人事件。被害者のポケットからは、ニコチンの塗られた針が無数に刺さったコルク球が発見された。群衆ひしめく巨大なニューヨークで続く第2、第3の大胆な殺人にも、目撃者はいない。この難事件に、聴力を失った元シェイクスピア俳優ドルリー・レーンが挑み、論理的で緻密な謎解きを繰り広げる。20年ぶりの決定版新訳でよみがえる、本格ミステリの不朽の名作。

翻訳は越前敏弥さん。
『ダ・ヴィンチ・コード』 の翻訳で知られていますが、Yuseumにとっては先日ご案内した『検死審問』の翻訳者さん(^^)v
そして、解説は有栖川有栖さんです。

 
実は『X』もクイーン作品の中では比較的早く読んだせいか、いまいち印象が薄いんですねf(^ー^;
そこで、この作品もほぼ10年ぶりに読み返しています(._.) φ

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コメント 5

パトラ

いつもnice!ありがとうございます(^^)
改訂版が出たのですか、知らなかったです。
年ばれちゃうけど、私がクイーンを読んだのは25年くらい前。
もちろん最初は「Xの悲劇」でした。
私も読み直してみようかな・・・(^^ゞ
by パトラ (2009-01-25 23:57) 

ecco

少年少女推理小説みたいな子供向けの本から、文庫本に初めて手にしたのが、エラリー・クイン。
なんだか内容を忘れてしまっていて、内容に関してコメントできませんが、また読んでみたいな^^
by ecco (2009-01-26 00:18) 

Yuseum

>パトラさんは25年前ですか[わはっ]
Yuseumは最初に「エジプト」を読んで、「なんだ、こいつは[むむっ]」と思ったけど、その次に「X」を読んで、「おっ、いいかも[ぴかっ]」と思った口ですw

>eccoさん、クイーンは事件そのものはそんなに派手じゃないから、内容は忘れがちですよね。
要所要所は覚えているのですが、「X」の犯人は誰だっけ? という状態のYuseumでした(^^ゞ
by Yuseum (2009-01-26 21:05) 

謎の東洋人ミスターX-15

「エジプト十字架」も、「X」も、単純に推理小説として面白いだけでなく、時代背景(文化や、交通機関)を活き活きと描き出している点で、傑作と言われるのではないかと。
ネタばらし的に言ってしまうと、偏執狂の域に達した様な犯人が引き起こす、完全犯罪に近付けた連続殺人、となりますが、その時代のリアルな雰囲気の中にあっては、「これは有り得る」と思わせてしまう(ex.犯罪歴が無い限り、指紋は登録されていないため、個人確定の手掛りにならない!)ところは、流石と言わざるを得ません。
by 謎の東洋人ミスターX-15 (2014-06-09 04:10) 

Yuseum

最近、角川の新訳で読み直しましたが、面白さを再確認です[おんぷ]
by Yuseum (2014-07-24 17:39) 

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