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アガサ・クリスティーのラジオドラマを舞台で [アガサ・クリスティー]

映画で読むアガサ・クリスティー (SCREEN新書)

映画で読むアガサ・クリスティー (SCREEN新書)

  • 作者: 北島 明弘
  • 出版社/メーカー: 近代映画社
  • 発売日: 2010/11
  • メディア: 新書

Kindle版

[右斜め上]の本に書かれているように、アガサ・クリスティーのラジオ作品は研究書でもあまり触れられていません。
この本を参考に、クリスティーが自ら脚本を書いたラジオ・ドラマを年譜の形にしてまとめておきます。

さて、最後に挙げた2作品"Butter in a Lordly Dish""Personal Call"ですが、"Personal Call"は1960年に再ラジオドラマ化されましたが、書籍化や映像化されることがなかったため色々「謎」の多い作品です。
最近になって、クリスティーのエージェントにより「タイプ打ちに手書きで修正された台本」が発見され、本国英国では『黄色いアイリス』(ラジオドラマ版)とともに3本立てで時折舞台上演されているようです。
日本で今年3月に『マウストラップ』が上演された時の<予告>もその3本立てでしたが、時間的なせいか『黄色いアイリス』はそれなりに知られているためかは?ですが、今回、"Butter in a Lordly Dish""Personal Call"の2作品が、それぞれ『最後のディナー』『フェイからの電話』というタイトルで本邦初演となりました。
演出家は先日の『マウストラップ』来日公演でも演出を手がけたジェイスン・アーカリ氏。
場所は、今年2月に『名探偵ポワロ〜ブラックコーヒー』が上演された東京・三越劇場です。  

アガサ・クリスティー サスペンス オムニバス @三越劇場 by ピュアーマリー(7月2日、3日)
原作・脚本/アガサ・クリスティー
演出/ジェイスン・アーカリ 翻訳/保坂磨理子

パンフレット(表紙)[右斜め下]

IMG_0527.JPG
Yuseum、観劇してきました(o´∀`o)
元々はラジオドラマ、つまり耳で聴く朗読劇ですが、パンフレットにもあったように「脚本に籠められた耳で聴く想像力を生かしながら、しかし朗読劇ではない、観客を惹きつける演劇的空間を創りだす」ことが最大のテーマだった今回の舞台。
そのあたりは、『マウストラップ』も演出したジェイスン・アーカリさんらしい演出だったと思います。

…では、ここからはこのブログでは珍しいのですが、この2作品の知名度が低い点と、今後再演される予定は今のところないようなので、
完全ネタバレ

 

で話を進めていこうと思いますσ(^◇^;)

ネタバレはここから。




第一部:最後のディナー
 "BUTTER IN A LORDLY DISH"
敏腕訴訟代理人のルークは。連続美女殺人事件で今度も勝訴を勝ち取った。週末には、新しい浮気相手とアバンチュールの旅に出る。それが最後のディナーになるとも知らずに・・・。 
パンフレットには1956年放送とありましたが、1948年の誤植でしょう。 
Wikipedia(英語)の解説はこちら
 
原題の"Butter in a Lordly Dish"は、「君主にふさわしい皿に盛られたバター」という旧約聖書の中の一節で、Jael(ヤエル)がSisera(シセラ)の頭をカナヅチと釘で打ち抜き殺す、というエピソードをモチーフに書かれています。
で、その「ヤエルとシセラの話」についてはパンフレットにも詳しく書かれていましたが。。。
それをそのまま引用するには長文なので、例えばこちらのホームページをご参照(..;)""""

シセラはカナン人の王ヤビンの将軍で実質的な権力者でしたが、北部イスラエルの人々がカナンからの解放を目指して立ち上がったとき、慢心故に戦いで敗北し、カイン人ヘベルの妻、ヤエルの天幕へ逃げ込みます。
カナンの王ヤビンとカイン人ヘベルの一族は友好関係にあり、ヤエルは本来ならシセラをかくまうべきでしたが、ヤエルはカナンの支配に苦しむイスラエルの人々に同情していたため、疲れて熟睡中のシセラにヤエルは天幕の釘を取り、槌を手にして彼のそばに忍び寄り、こめかみに釘を打ち込んだ。釘は地まで突き刺さった。疲れきって熟睡していた彼は、こうして死んだ。」(士師記4・21)
そして、ヤエルはイスラエル軍司令官のバラクにシセラの死体を差しだしたのでした。 
 
その話を踏まえれば、クリスティーが執筆した脚本のプロットは単純明快。
以下、ストーリーのネタバレです。

冒頭、下宿屋を経営しているミセス・ベターとその娘フローリーが、わずかな荷物で下宿しているジュリア・キーンについて話しています。フローリーは、彼女がメイフェアでのカクテル・パーティから出てくるのを目撃しており、そんなジュリアがなぜこんな安下宿にいるのか不思議に思います。
話題は新聞に掲載されていたタクシー運転手の事件へと移り、その事件で容疑者の有罪を勝ち取った敏腕訴訟代理人ルーク・エンダビーの話に。この事件はパッとしない事件ではありましたが、彼はその前にも「連続ブロンド美女殺人事件」にも関与し、彼の巧みな弁舌により、陪審員は容疑者の(魅力的な男)ヘンリー・ガーフィールドを有罪にした、のだと。そこへ、ジュリアが戻ってきて電話を使わせてもらうよう頼みます。ジュリアは実はルークに電話しようとしていたのですが、不在だと聞かされると何も伝言を残さずに電話を切ったのでした。
 
舞台はルークの家。その電話を受け取った使用人のヘイワードは、何も伝言を残さなかったその電話にブツブツ文句を言っていましたが、ちょうどそこへルークと交際のあるスーザン・ウォーレンが訪れます。勝訴を勝ち取ったルークも家に帰ってきて、そして、クリスティーズでまたも絵画を購入してきた彼の妻マリオンも戻ってきます。マリオンはスーザンと「連続ブロンド美女殺人事件」について話をします。多くの陪審員の女性がルークに影響されたのだと。。。

ルークは、今晩別の仕事でリヴァプールに発つ、と言い、彼の妻を驚かせます。マリオンも、そしてスーザンも、ルークは女たらしで、今晩の目的地もリヴァプールではなく新しい浮気相手の元に行くのだろう、と分かっていましたが、マリオンはルークが子供たちを可愛がっており、彼女にとっても愛情こそないものの優しく思いやりのある男性だったので、大目に見るのでした。
 
ルークはパディントン駅でジュリア・キーンと出会い、汽車に乗ります。「ウォーミング・ハルト」駅で降りた彼らは、ジュリアの言うコテージへ徒歩で向かうのでした。暖炉に火をつけると、そこにはルークのためのディナーが[レストラン]。鴨肉、パテ、バター・・・「君主にふさわしい皿に盛られたバター」とジュリアが言ったとき、ルークはそれをどこかで聞いたように思うのでした。

食後のコーヒー[喫茶店]を飲みながら、彼らはヘンリー・ガーフィールドが有罪になった連続美女殺人事件のことを話します。ジュリアは証拠がないと反論しますが、ルークは殺された女性は皆、ヘンリーと関係があったとして、彼は有罪だと断言します。しかしながら、彼の妻がいつもアリバイを証明するので、立証は難しかった。もっとも、その妻は公判の際には腸チフスで入院していたようで、彼の妻の顔は見たことがないが。。。
 
突然、ルークは脚に痛みを覚えます! コーヒーに薬が仕込まれていたのです。次第に身体が動きにくくなり、意識もどんどん遠のいていく。。。そんな彼の前で、ジュリアはカナヅチと釘を取り出します。「ヤエルとシセラの話」はどうなったのかしらね・・・

実はジュリアの本当の名前はジュリア・ガーフィールド。そして、彼女は女性たちを次々に殺したのは彼女の夫ではなく自分だと告白します。私はルークの奥さんとは違って、夫の浮気性には我慢できなかった。それでも、私は夫を愛していた。必死に逃げようともがくルークに、ジュリアは高笑いしながらカナヅチと釘を彼に近づけていくのでした。。。
 
 
以上ネタバレ終わり。
舞台の最初と途中で、役者さんがレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」のようなポーズをとっているのが印象的でした。おそらく、演出家のジェイスン・アーカリさん発案のものだと思われますが、そもそも「最後の晩餐」かどうかは自信がありません(..;)


 
第二部:フェイからの電話
 "PERSONAL CALL"
新婚夫婦ジェームズ・ブレントとその妻パムは友人たちを招いてのパーティの最中、そこへ、ジェームズ宛に電話が。
あり得ないいたずら電話に憤慨したジェームズは、とりついだ電話交換手にイギリスのどこからかけてきたものかと問うが、交換手はジェームズ宛に電話はとりついでいないという。電話の相手は?
謎の電話に翻弄されていく二人…。
Wikipedia(英語)の解説はこちら

こちらは早速、ストーリーのネタバレを。
 
パーティの最中、家政婦のミセス・ラムから電話を受け取ったジェームズは、「自分はフェイよ。『ニュートン・アボット』駅にいる私を早く迎えに来て。」という声を聞き憤慨します。その様子を見たパムは心配しますが、ジェームズは誰からの電話だとは答えずにパムをパーティに帰し、電話交換手にその電話がどこからかと問いました。しかし、折り返しかかってきた電話に出たジェームズは、今日は電話をとりついでいないという交換手の返事に唖然とします。
 
一方、駅ではポーターに電話の場所を尋ねる女性の姿が。女性が去った後訝しがるポーターに、同僚のポーターが声をかけます。あの女性、以前も見たような・・・

翌日、パーティにも出席していたエヴァン&メアリー・カーティス夫妻とブリッジをしていると再び電話が。ジェームズが電話に出るために席を離れたとき、パムはメアリーに、昨日の電話のことがあり心配だと相談します。メアリーは寝室の内線で電話の内容を聴けば、と提案し、パムは寝室へ。
電話はまたも「フェイ」からでした。ジェームズはお前は誰だ?どこから電話しているんだ?と問いただしますが、電話の主は電話ボックスの扉を少し開けると、ジェームズにもニュートン・アボット駅構内のアナウンスが聞こえてくるのでした。フェイが「今は午後7時15分。早く迎えに来て。」と話すのを聞いたジェームズは驚愕して、電話を切ります。戻ってきたジェームズは体調が悪そうで、その様子を見たカーティス夫妻はブリッジを切り上げ帰宅します。
電話を盗み聞きしていたとジェームズに告白したパムがフェイについて尋ねると、先妻だとジェームズ。1年前に死んだ先妻の名はフローレンスだと聞かされていたパムは動揺しますが、ジェームズは彼女が事故死だったと告げます。ニュートン・アボット駅のホームで電車を待っていた時、ジェームズは新聞を買いにフェイの元を離れたところ、フェイは持病の眩暈に襲われてホームの下へ・・・その時刻が7時15分だったのだと。ジェームズは電話のことは忘れようと、明後日からのフランスへの新婚旅行について話を変えるのでした。
 
翌日、ジェームズが外出している時、パムは弁護士のエンダビー氏の訪問を受けます。実は、ジェームズとパムは、もし死んだらその遺産は配偶者が相続する、という遺言書をそれぞれ作成していたのですが(パムにしてみれば、ジェームズの方が金持ちだから…と思っていたのですが)、エンダビー氏はその遺言書を自分がそのまま持っているべきか、それとも銀行に保管すべきか確認しに来たのでした。そして、帰り際にパムの眩暈がよくなるように、と言って立ち去ります。ジェームズからその事を聞いたとエンダビー氏は言ったのですが、自分は眩暈など患っていない、とパムは戸惑います。
そこへ、またも電話が[電話]! パムが電話をとると、フェイ・モーティマーと名乗る人物から「ジェームズとフランスへ電車で旅行してはいけない。」と忠告されます。電話が切れた直後に帰ってきたジェームズに、パムは明日ニュートン・アボット駅へ行って、7時15分に何が起ころうとしているのか確認しなければ、と言います。
 
翌日の午後7時15分。ニュートン・アボット駅へと二人は向かいます。ホームに立つパムにジェームズが何かをしようとした時・・・、そこに現れたのは赤い服を着たフェイでした! うろたえるジェームズ。そこへ電車が[電車]! 危ない、という叫び声・・・
 
気を失っていたパムが目を覚ますと、そこは駅長室でした。そして、ナラコット警部の姿が。警部はジェームズが死んだことをパムに告げますが、奥さん、あなたはフランス旅行に行かなくてツイてました、と話し始めました。実はジェームズは過去に3回、妻を同じように電車のホームから突き落として殺していたのだ。しかしながら、証拠がなかったので、今回、「この人」に協力を依頼したのだ、と。
「この人」、赤い服を着た女性はウィッグを外し、自分はフェイの母親だと紹介しました。自分の声はフェイとそっくりだと話した彼女は、1回目の電話はロンドンから電話をし、2回目は実際にニュートン・アボット駅から電話をかけた。しかし、3回目はジェームズではなかったので、電話をすぐ切った、と。パムは、でもあの時は私に忠告してくれたではないか?!と驚くのですが、フェイの母親は自分ではない、と言うのです。では、あの時の電話の声は・・・

以上ネタバレ終わり。
ネタバレでは端折りましたが、パーティのシーンでは電話のシーンとパーティの様子を交互に切り替えるような感じで、なかなか面白かったです。
ただ、ナラコット警部がほんのチョイ役なのはともかく、いくらなんでも3回も証拠が挙げられないのはいかがなものかとヾ(゚Д゚ )

…ということで、「サスペンス オムニバス」と題する通り、どちらも犯人当てが主眼ではなくて、サスペンスを味わう物語ですね。
リアルタイムでスリルを味わうような感覚なので、どちらもこうして文章にしてみると・・・な感じがするから、クリスティーはこの2作品を短編化しなかったのかな? 
 
 
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