アガサ・クリスティーのラジオドラマを舞台で [アガサ・クリスティー]
(Kindle版)
の本に書かれているように、アガサ・クリスティーのラジオ作品は研究書でもあまり触れられていません。
この本を参考に、クリスティーが自ら脚本を書いたラジオ・ドラマを年譜の形にしてまとめておきます。
- 1930年:ディテクション・クラブ(イギリス推理作家クラブ)がBBCと組んで、6人のメンバーがそれぞれ一話を担当する連作小説を執筆。
クリスティーは『屏風のかげに』(30年6月)、『ザ・スクープ』(31年1月)に参加し、彼女自身が朗読。(いずれも、 「ザ・スクープ」(中央公論新社)所収。) - 1937年:11月2日夜9時から『黄色いアイリス』がミュージカル仕立ての1時間番組としてBBCで放送。ただし、 「黄色いアイリス」 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)(Kindle版、)所収の同名短編のようにポアロが歌で犯人を指摘することはない。
- 1947年:BBCがメアリ皇太后の80歳を祝う番組を企画。皇太后の希望にクリスティーも快諾して脚本を執筆し、5月30日に"Three Blind Mice"を放送。
のちに『三匹の盲目のねずみ』として短編小説化。( 「愛の探偵たち」 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)所収(Kindle版、)。
それを舞台化したのが 『ねずみとり』 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)( Kindle版、)。 - 1948年:BBCにて、ディテクション・クラブのメンバー企画の"Mystery Playhouse"という番組がスタート。
クリスティーは1月13日夜9時30分から放送された30分ドラマ"Butter in a Lordly Dish"の脚本を執筆。(1月16日に再放送。) - 1954年: 『シタフォードの秘密』 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)(Kindle版、)のナラコット警部が再登場する30分ドラマ"Personal Call"がBBCにて放送。
さて、最後に挙げた2作品"Butter in a Lordly Dish"と"Personal Call"ですが、"Personal Call"は1960年に再ラジオドラマ化されましたが、書籍化や映像化されることがなかったため色々「謎」の多い作品です。
最近になって、クリスティーのエージェントにより「タイプ打ちに手書きで修正された台本」が発見され、本国英国では『黄色いアイリス』(ラジオドラマ版)とともに3本立てで時折舞台上演されているようです。
日本で今年3月に『マウストラップ』が上演された時の<予告>もその3本立てでしたが、時間的なせいか『黄色いアイリス』はそれなりに知られているためかは?ですが、今回、"Butter in a Lordly Dish"と"Personal Call"の2作品が、それぞれ『最後のディナー』、『フェイからの電話』というタイトルで本邦初演となりました。
演出家は先日の『マウストラップ』来日公演でも演出を手がけたジェイスン・アーカリ氏。
場所は、今年2月に『名探偵ポワロ〜ブラックコーヒー』が上演された東京・三越劇場です。
アガサ・クリスティー サスペンス オムニバス @三越劇場 by ピュアーマリー(7月2日、3日)
原作・脚本/アガサ・クリスティー
演出/ジェイスン・アーカリ 翻訳/保坂磨理子
パンフレット(表紙)
元々はラジオドラマ、つまり耳で聴く朗読劇ですが、パンフレットにもあったように「脚本に籠められた耳で聴く想像力を生かしながら、しかし朗読劇ではない、観客を惹きつける演劇的空間を創りだす」ことが最大のテーマだった今回の舞台。
そのあたりは、『マウストラップ』も演出したジェイスン・アーカリさんらしい演出だったと思います。
…では、ここからはこのブログでは珍しいのですが、この2作品の知名度が低い点と、今後再演される予定は今のところないようなので、
で話を進めていこうと思いますσ(^◇^;)
ネタバレはここから。
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"BUTTER IN A LORDLY DISH"
敏腕訴訟代理人のルークは。連続美女殺人事件で今度も勝訴を勝ち取った。週末には、新しい浮気相手とアバンチュールの旅に出る。それが最後のディナーになるとも知らずに・・・。
で、その「ヤエルとシセラの話」についてはパンフレットにも詳しく書かれていましたが。。。
それをそのまま引用するには長文なので、例えばこちらのホームページをご参照(..;)""""
シセラはカナン人の王ヤビンの将軍で実質的な権力者でしたが、北部イスラエルの人々がカナンからの解放を目指して立ち上がったとき、慢心故に戦いで敗北し、カイン人ヘベルの妻、ヤエルの天幕へ逃げ込みます。
そして、ヤエルはイスラエル軍司令官のバラクにシセラの死体を差しだしたのでした。
以下、ストーリーのネタバレです。
冒頭、下宿屋を経営しているミセス・ベターとその娘フローリーが、わずかな荷物で下宿しているジュリア・キーンについて話しています。フローリーは、彼女がメイフェアでのカクテル・パーティから出てくるのを目撃しており、そんなジュリアがなぜこんな安下宿にいるのか不思議に思います。
ルークは、今晩別の仕事でリヴァプールに発つ、と言い、彼の妻を驚かせます。マリオンも、そしてスーザンも、ルークは女たらしで、今晩の目的地もリヴァプールではなく新しい浮気相手の元に行くのだろう、と分かっていましたが、マリオンはルークが子供たちを可愛がっており、彼女にとっても愛情こそないものの優しく思いやりのある男性だったので、大目に見るのでした。
食後のコーヒーを飲みながら、彼らはヘンリー・ガーフィールドが有罪になった連続美女殺人事件のことを話します。ジュリアは証拠がないと反論しますが、ルークは殺された女性は皆、ヘンリーと関係があったとして、彼は有罪だと断言します。しかしながら、彼の妻がいつもアリバイを証明するので、立証は難しかった。もっとも、その妻は公判の際には腸チフスで入院していたようで、彼の妻の顔は見たことがないが。。。
実はジュリアの本当の名前はジュリア・ガーフィールド。そして、彼女は女性たちを次々に殺したのは彼女の夫ではなく自分だと告白します。私はルークの奥さんとは違って、夫の浮気性には我慢できなかった。それでも、私は夫を愛していた。必死に逃げようともがくルークに、ジュリアは高笑いしながらカナヅチと釘を彼に近づけていくのでした。。。
舞台の最初と途中で、役者さんがレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」のようなポーズをとっているのが印象的でした。おそらく、演出家のジェイスン・アーカリさん発案のものだと思われますが、そもそも「最後の晩餐」かどうかは自信がありません(..;)
新婚夫婦ジェームズ・ブレントとその妻パムは友人たちを招いてのパーティの最中、そこへ、ジェームズ宛に電話が。
あり得ないいたずら電話に憤慨したジェームズは、とりついだ電話交換手にイギリスのどこからかけてきたものかと問うが、交換手はジェームズ宛に電話はとりついでいないという。電話の相手は?
謎の電話に翻弄されていく二人…。
翌日、パーティにも出席していたエヴァン&メアリー・カーティス夫妻とブリッジをしていると再び電話が。ジェームズが電話に出るために席を離れたとき、パムはメアリーに、昨日の電話のことがあり心配だと相談します。メアリーは寝室の内線で電話の内容を聴けば、と提案し、パムは寝室へ。
電話はまたも「フェイ」からでした。ジェームズはお前は誰だ?どこから電話しているんだ?と問いただしますが、電話の主は電話ボックスの扉を少し開けると、ジェームズにもニュートン・アボット駅構内のアナウンスが聞こえてくるのでした。フェイが「今は午後7時15分。早く迎えに来て。」と話すのを聞いたジェームズは驚愕して、電話を切ります。戻ってきたジェームズは体調が悪そうで、その様子を見たカーティス夫妻はブリッジを切り上げ帰宅します。
電話を盗み聞きしていたとジェームズに告白したパムがフェイについて尋ねると、先妻だとジェームズ。1年前に死んだ先妻の名はフローレンスだと聞かされていたパムは動揺しますが、ジェームズは彼女が事故死だったと告げます。ニュートン・アボット駅のホームで電車を待っていた時、ジェームズは新聞を買いにフェイの元を離れたところ、フェイは持病の眩暈に襲われてホームの下へ・・・その時刻が7時15分だったのだと。ジェームズは電話のことは忘れようと、明後日からのフランスへの新婚旅行について話を変えるのでした。
以上ネタバレ終わり。
ネタバレでは端折りましたが、パーティのシーンでは電話のシーンとパーティの様子を交互に切り替えるような感じで、なかなか面白かったです。
ただ、ナラコット警部がほんのチョイ役なのはともかく、いくらなんでも3回も証拠が挙げられないのはいかがなものかとヾ(゚Д゚ )
…ということで、「サスペンス オムニバス」と題する通り、どちらも犯人当てが主眼ではなくて、サスペンスを味わう物語ですね。
リアルタイムでスリルを味わうような感覚なので、どちらもこうして文章にしてみると・・・な感じがするから、クリスティーはこの2作品を短編化しなかったのかな?
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