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【ネタバレなし】この本はあなたの人生を変える? ー『カササギ殺人事件(上)』 [Mystery]

アガサ・クリスティへの完璧なオマージュ
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イギリスの出版業界ミステリ
21世紀に書かれ翻訳された謎解きミステリの最高峰といっても過言ではない。— 川出正樹氏
(上巻オビより抜粋)

控えめに言っても、2018年に最も読むべき謎解き小説の1冊が本書である。古典的探偵小説に関心を持っている人なら、その度合いはさらに跳ね上がる。— 杉江松恋氏

クリスティに限らず、シャーロック・ホームズや英国ミステリドラマ、ひいては本格ミステリ全般に関心のある方には是非読んでもらいたいミステリが登場しました[NEW]

One for sorrow, 一羽なら悲しみ、
Two for joy. 二羽なら喜び。
Three for a girl, 三羽なら娘、
Four for a boy. 四羽なら息子。
Five for silver, 五羽なら銀で、
Six for gold. 六羽なら金。
Seven for a secret, 七羽ならそれは、
Never to be told. 明かされたことのない秘密。

これは英国に古くから伝わるカササギ(magpie:マグパイ)の数え唄で、色々なバージョンがあるようですが、これからご紹介するアンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』Magpie Murders では上に記した歌詞が記されています。(英文は記されていませんが、翻訳からこのバージョンだと思われます。)


カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 文庫

出版前から話題になっていたため、本の内容に関する情報を遮断して本作(上・下巻)を読みました。
深夜に読了し、興奮してツイート。

一番上の引用も、あながち誇張ではなかったです。

このブログ記事では、『カササギ殺人事件』に興味のある皆様のために、主に上巻について【ネタバレなし】でご紹介しますが、その前に。

作者アンソニー・ホロヴィッツについて


『カササギ殺人事件』は、アンソニー・ホロヴィッツがYA向け以外で初めて書いたオリジナル・ミステリのため、この作者についてご存じでない方もいるかもしれません。
そこで、まず作者についてご紹介します。
アンソニー・ホロヴィッツ - Wikipedia

小説家としてのアンソニー・ホロヴィッツ


ストームブレイカー (女王陛下の少年スパイ! アレックスシリーズ) (集英社文庫)

ストームブレイカー (女王陛下の少年スパイ! アレックスシリーズ) (集英社文庫)

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/07/20
  • メディア: 文庫
アンソニー・ホロヴィッツと聞いて、私がイメージするのは「マルチタレントな人だなぁ」という感じ。
日本でも比較的知られているのが、YA向けの「女王陛下の少年スパイ! アレックス」シリーズ。
邦訳版は漫画家の荒木飛呂彦さんがイラストを手がけていますが、このシリーズ第1作『ストームブレイカー』は後に アレックスライダー [DVD]というタイトルで映画化されています。(この脚本もホロヴィッツが担当。)

シャーロック・ホームズ 絹の家 (角川文庫)

シャーロック・ホームズ 絹の家 (角川文庫)

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/10/24
  • メディア: ペーパーバック
モリアーティ (角川文庫)

モリアーティ (角川文庫)

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: 文庫

シャーロッキアンなら、アーサー・コナン・ドイル財団が正式にホームズシリーズの公式続編として認めた、この2作品の作者として知っているでしょう。(この2作に関連性はないので、どちらから読んでも構いません。)
私はこの2作を読んで、
「トリッキーな作品を書くなぁ。(特に『モリアーティ』。)」
という印象を強くしました。(なお、『シャーロック・ホームズ 絹の家』に関する拙ブログ記事はこちら。)

私は未読ですが、イアン・フレミング財団が公式認定したジェームズ・ボンドシリーズの新作『007 逆襲のトリガー』や"Forever and a Day"も書いており、こちらも完成度が高いようです。

007 逆襲のトリガー

007 逆襲のトリガー

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/03/24
  • メディア: 単行本

脚本家としてのアンソニー・ホロヴィッツ

名探偵ポワロ

名探偵ポワロ Blu-ray BOX1

名探偵ポワロ Blu-ray BOX1

  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
  • メディア: Blu-ray
名探偵ポワロ Blu-ray BOX2

名探偵ポワロ Blu-ray BOX2

  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
  • メディア: Blu-ray
Amazonビデオで好評レンタル・販売中

私がアンソニー・ホロヴィッツという名前を初めて知ったのは、このデヴィッド・スーシェさんがエルキュール・ポワロを演じた「名探偵ポワロ」の脚本家として。
(余談ながら、「名探偵ポワロ」Blu-ray BOX3以降はまだ販売されないのかなぁ。)
一応、彼が手がけた脚本を以下に記します。彼の脚本作品は、上のBlu-ray BOX1,2で全部見られます。

短編:『100万ドル債券盗難事件』,『二重の手がかり』,『スペイン櫃の秘密』,『盗まれたロイヤル・ルビー』(クライブ・エクストンとの共作),『黄色いアイリス』,『死人の鏡』,『グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件』
長編:『ヒッコリー・ロードの殺人』,『ゴルフ場殺人事件』,『エッジウェア卿の死』,『白昼の悪魔』

バーナビー警部

現在、AXNミステリーでリマスター版が放送されている「バーナビー警部」(原題:Midsomer Murders)の初期シリーズについても、ホロヴィッツが脚本を書いています。その作品は以下の通り。
お恥ずかしながら、私は「バーナビー警部」を見たことがなかったので、この機会に見てみようと思います。
第1話 

刑事フォイル

そして、私も好きな「刑事フォイル」(原題:Foyle's War)では、その制作から携わる筆頭脚本家でもあります。
(余談ながら、NHKは残りの作品を吹き替え放送して、DVD-BOX3以降も(以下略)
刑事フォイル DVD BOX1

刑事フォイル DVD BOX1

  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
  • メディア: DVD
Amazonビデオ:第1話『ドイツ人の女』〜第14話『生物兵器』までレンタル中。

「刑事フォイル」は第二次世界大戦下で警視正を務めるフォイルの渋い魅力もあって、なかなか見応えがありますが、結構トリッキーな謎解き要素もあって、それも面白い作品です。

ニュー・ブラッド 新米捜査官の事件ファイル

昨年AXNミステリーで放送された本作は、現在のイギリスが舞台。
新米刑事のアラッシュはイラン出身の両親から生まれた英国育ちで、新米捜査官ステファンはポーランド出身の英国第1世代ですが、そんな彼らがひょんなことから相棒を組むことになります。
英国社会が抱える社会問題も描かれ、まずまず面白かったです。
この放送に併せてホロヴィッツに電話でインタビューした下の記事もご参考まで。

さて、ここまでお読みになった方で『カササギ殺人事件』を読了された方なら、いろいろ{にんまり(・∀・)}されたところもあるのではないでしょうか。
前置きが長くなりましたが、いよいよ『カササギ殺人事件』について触れたいと思います。

カササギ殺人事件(上)のネタバレなし感想


ロンドン、クラウチ・エンド


冒頭、『カササギ殺人事件』が世界各国で愛され、ベストセラーになった名探偵アティカス・ピュントのシリーズ第九作だ、と説明する「わたし」が現れます。
アンドレアスという彼氏がいるようだから、どうも「わたし」は女性のよう(…いえいえ、今の時代、その結論にすぐに飛びつくのは早すぎる)などと思いながら読み進めると、「わたし」から読者に向けて次の忠告を受けます。

この本は、わたしの人生を変えた。

こんな惹句(じゃっく)にドキッとしながら、我々がなぜ小説を楽しむのか、アラン・コンウェイというろくでなしが原因で「わたし」の人生の全てが変わってしまったこと、『カササギ殺人事件』に「わたし」が何を期待していたのかが書かれた後、最後にもう一度こんな警告を受けます。

これ以上の説明はいらないだろう。わたしとちがって、あなたはちゃんと警告を受けたことは忘れないように。

この間、わずか5ページ。
この読者への挑戦状みたいなフレーズを読めば、次が読みたくなってくるではありませんか[exclamation]

名探偵アティカス・ピュントシリーズ
カササギ殺人事件
アラン・コンウェイ


再び本扉が現れ、「作者について」<アティカス・ピュント>シリーズ既刊「本シリーズに寄せられた絶賛の声」というページが続きます。
「作者について」では、アラン・コンウェイが

2012年には文学における功績を認められ、大英帝国勲章(MBE)を授与された

とありますが、Wikipediaによれば、アンソニー・ホロヴィッツさんは2014年に文学における功績を認められ、大英帝国勲章(OBE;MBEの1ランク上)を授与されたそうで(『カササギ殺人事件』の本国での初版刊行は2016年)、こんなところにも作者の遊び心が感じられます。

また、「〜絶賛の声」には著名人や新聞紙などからの賞賛が記載されており、最後に、

BBC1にて連続テレビドラマ制作決定!

と書かれていましたが、ここではそんな賞賛の中から、これを取り上げましょう。

シャーロック・ホームズ、ピーター・ウィムジイ卿、ブラウン神父、フィリップ・マーロウ、ポワロ……真に偉大な探偵を数え上げても、おそらく片手でこと足りる。いや、アティカス・ピュントが現れたいま、六本めの指が必要かもしれない!
 —≪アイリッシュ・インデペンデント紙≫

その次のページに「登場人物」一覧がありました。
「うわ、登場人物多いなぁ。(23人!)」
と思いましたが、後で少し触れるように登場人物の書き分けがしっかりできていたので、その心配は杞憂でした。


ここまで読んで、一つ二つ引っかかる点がありましたが、そのうちの一つはネタバレに直結するので、ここでは控えておきましょう。。。
一つ言えることは、『カササギ殺人事件』は「作中作」、「小説内小説」と呼ばれる入れ子構造の形を取っているようです。

第一部 悲しみ


一九五五年七月二十三日
 その日は、葬儀が行われることになっていた。

という文章で始まる第一部。
准男爵であるサー・マグナス・パイ(「マグパイ(カササギ)」だ!)の屋敷で家政婦を務めていた、メアリ・エリザベス・ブラキストンという人物の葬儀が催されるようですが、その後、一章一章を使ってその葬儀に参列する主な登場人物が丁寧に紹介されていきます。
この書き方は、まさにアガサ・クリスティ。(特に、クリスティの中〜後期の作風に近いでしょうか。)
どの人物も個性豊かながら何か胸に一物があるかのように描かれ、そして、葬儀中に「ある人物」が多くのカササギの姿に気づき、最初にお示しした「カササギの数え唄」を回想して、第一部が締めくくられます。

第二部 喜び(ジョイ)


第二部でいよいよ名探偵アティカス・ピュントが登場するのですが、この探偵にも何か秘密があるようです。。。


要約は、このくらいまでにしておきましょう。
その性格は色々異なるものの、どことなく名探偵ポワロを彷彿とさせるアティカス・ピュント。
1950年代半ば、美しき英国の田舎の小村サクスビー・オン・エイヴォンを舞台に、「ディングル・デル(渓谷の森)」と呼ばれる森と湖を有する貴族、サー・マグナス・パイの「パイ屋敷」で相次いで起こる事件。
それぞれの思惑が複雑に絡み合う人間模様。
そして、各部のタイトルが「カササギの数え唄」になぞらえて付けられていきそうな雰囲気も感じられます。
古き良き英国ミステリとはまさにこのことで、海外古典ミステリが大好きな私にはピッタリの作品です。
(とは言え、「あぁ、これは現代的な要素を取り入れているな」と思われる部分もあり、そこも面白いです。)


ただ、英国の古典(っぽい)ミステリらしく、やや話のテンポが遅いような気もするので、もしかするとそれで敬遠してしまう人もいるかもしれません。
…そういう方でも、どうか途中で本書を投げないでください[ふらふら]

なぜなら。

この作品には下巻があるからです。

上巻を読み終えた皆様は、続きが読みたくて仕方がないことでしょう。



カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 文庫

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