パニック・パーティ (ヴィンテージ・ミステリ)

  • 作者: アントニイ・バークリー
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2010/10/18
  • メディア: 単行本
『パニック・パーティ』読了#59138;
Yuseumとしては珍しく1日で読んじゃいました。
(まあ、風邪の具合が大分よくなって暇だったので(∀`*ゞ)エヘヘ)

なるほど、これは推理小説、探偵小説という枠で見れば、これは「失敗作」でしょう。
何しろ、探偵役であるはずのロジャー・シェリンガムは推理を放棄してしまうのだから。
じゃあ、読者が推理できる要素があるか、というと、それもない。
ただ、序文にもあるように、この作品は「『推理』のみを主題とした小説」の「正反対」の作品だから、そういう作品だと割り切って読むべきでしょう。
友人の招きで絶海の孤島にある館へ招待されたシェリンガム一行。最初は和やかだったものの、その友人が「このなかに、殺人者がいる」と発してからは・・・。

前にも述べたように、クリスティーの『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせるようなあらすじですが、当たらずとも遠からず。
でも、読み終わった後にまず思い浮かべたのは、こちらの文学作品#59045;

蠅の王 (集英社文庫)

  • 作者: ウィリアム・ゴールディング
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2009/06/26
  • メディア: 文庫
ノーベル文学賞を受賞したゴールディングの代表作と比較するなんて、と思われるかもしれませんが、「無人島で極度の緊張状態に置かれた人々がその本性を徐々に顕していく展開」を記した小説の先駆として、この『パニック・パーティ』を捉える人は海外にもいるようです。
例えば、gadectionこの記事や、THE GREATEST GAME IN THE WORLDにある『パニック・パーティ』の項をご参照ください。

しかしながら、『蠅の王』が悲劇的結末へと落ちていくのに対し、バークリーの『パニック・パーティ』がそれより一歩踏みとどまった感があるのは、やはりシリーズ探偵ロジャー・シェリンガムが主人公の「探偵小説」だからでしょう。
これが「シリーズ探偵」でなければ、別の展開があったのかもしれませんが、いくら暴走しようとシェリンガムはシェリンガム。
一貫して「理性」の側にいる(そして、いざるを得ない)シェリンガムの役回りとしては、自分以上に暴走しようとする周りの人間を制御しようとする「責任者」の立場が適任であり、そんな責任者が存在する限り、いくら事件が勃発しても世界は安全だからです。

ただ、そのせいで作品全体のテーマが中途半端になった感は否めません。
エピローグで「探偵小説」という体裁をかろうじて整えたばかりに、結局、バークリーはこの作品で何をやりたかったのか、が曖昧になってしまいました。
もしかすると、バークリーはもっと実験的な小説を書きたかったのかもしれないけれど、時代(1934年;『蠅の王』発表の実に20年前)のニーズには合わなかったので、それを止めたのかもしれません。

ということで、シェリンガム・シリーズが好きな方にはオススメです#59011;