More Work for the Undertakerを読むたびに—それがじつにしばしば読み返したくなる—"この作品以上に溌剌としたミステリはない”と思う。マージェリー・アリンガムはなみはずれて強烈な力(エネルギー)に恵まれている。そのエネルギーが彼女の全作品に、あえて料理本のような言い回しをするなら、「濃厚な味わい」をあたえている。

「海外ミステリ名作100選」

H・R・F・キーティング、長野きよみ=訳(早川書房)より抜粋




 さらに、後期のMore Work for the Undertaker(未訳)では、…(中略)…全体的には信じがたい部分があるとしても、ここに描かれたロンドンの一角—いくつかの通りと、ジョージ王朝時代の建物が立ち並ぶ広場は、あらゆる要素が内包された、完全なひとつの世界となっているのです。

 思うに、それこそマージェリー・アリンガムならではの特徴—幻想性と現実感の混在する味わいでしょう。

『マージェリー・アリンガムを偲んで』

アガサ・クリスティ

「クリスマスの朝に」マージェリー・アリンガム、猪俣美江子=訳(創元推理文庫)より抜粋





葬儀屋の次の仕事



  • 作者: マージェリー・アリンガム

  • 出版社/メーカー: 論創社

  • 発売日: 2018/04/04

  • メディア: 単行本






More Work for the Undertaker — 『葬儀屋の次の仕事』

このタイトルを、私は何年唱えてきたでしょうか#59140;

12年待った本作が、いよいよ来月4月に出版される!
(書影まで掲載されているのだから、本当に出版されるのでしょう。。。)
…ということで、久しぶりにブログを書いてみました#59017;


マージェリー・アリンガムは、本格推理小説の黄金時代(二つの世界大戦の狭間にあたる約20年間;1920年〜1940年頃)において、アガサ・クリスティー、ドロシー・L・セイヤーズ、ナイオ・マーシュとともに「英国女流推理作家≪ビッグ4≫」とも呼ばれた作家。
1929年発刊のThe Crime at Black Dudleyに脇役として初登場し、その後、『ミステリー・マイル』で主役となる探偵アルバート・キャンピオンの生みの親として有名です。(後述リスト参照)


このマージェリー・アリンガムの代表作のひとつ、"More Work for the Undertaker"。
(先に引用した、H・R・F・キーティング 「海外ミステリ名作100選―ポオからP・Dジェイムズまで」 において、『霧の中の虎』とともに本作が選出されています。)

拙ブログを振り返ると、この『葬儀屋の次の仕事』というタイトルで、論創社さんから近刊予告が出たのは2005年12月頃
2005年といえば、2004年11月に創刊された論創海外ミステリから、 『検屍官の領分』 (論創海外ミステリ7)『殺人者の街角』 (論創海外ミステリ20)『陶人形の幻影』 (論創海外ミステリ25)と、アリンガムの比較的後期の作品が立て続けに出版されていたので。
当然、『葬儀屋の次の仕事』もすぐに出版されるものと思っていました。

ところが、2006年の年末になっても出版されず(´・ω・`)
2009年頃になるのでは?という噂を耳にするも、その年の年末になっても出版されず(´・ω・`)(´・ω・`)
2011年に、Twitterで論創社さんに問い合わせる機会があったのですが、その時に、




アリンガムは出すとしたらキャンピオン短編集だと思います。

と伺いました(゚´Д`゚)
この時点で、論創社さんにて『葬儀屋の次の仕事』が出版される予定は完全に消えてしまったわけですね。。。
(この時点では、同じように出版予定が流れてしまったナイオ・マーシュDeath and the Dancing Footmanの方が、まだ僅かながらですが、復活する可能性はありました。)


そんな状況が変わるきっかけになった(のかな?)のは、2014年より創元推理文庫から出版された短編集「キャンピオン氏の事件簿」Ⅰ〜Ⅲ。
先の『マージェリー・アリンガムを偲んで』の引用は、この短編集Ⅲに収録されたクリスティーの追悼文です。





窓辺の老人 (キャンピオン氏の事件簿1) (創元推理文庫)



  • 作者: マージェリー・アリンガム

  • 出版社/メーカー: 東京創元社

  • 発売日: 2014/10/12

  • メディア: 文庫








幻の屋敷 (キャンピオン氏の事件簿2) (創元推理文庫)



  • 作者: マージェリー・アリンガム

  • 出版社/メーカー: 東京創元社

  • 発売日: 2016/08/20

  • メディア: 文庫








クリスマスの朝に (キャンピオン氏の事件簿3) (創元推理文庫)



  • 作者: マージェリー・アリンガム

  • 出版社/メーカー: 東京創元社

  • 発売日: 2016/11/30

  • メディア: 文庫







この短編集Ⅰが出て間もなくの2014年10月、論創海外ミステリの近刊予告に『葬儀屋の次の仕事』が復活したのです#59138;
ただ、そこからまた音沙汰がなくて、やきもきしていたのですが、2016年の年末に論創社さんから、




というツイがあり。
そして、2017年には間に合いませんでしたが、今年、論創海外ミステリ206として出版されるのです#59126;

・*:.。..。.:*・゜ヽ( ´∀`)人(´∀` )ノ・゜゚・*:.。..。.:*


思えば、私がアリンガム、アリンガムと粘着(?)するきっかけとなったのは、『幽霊の死』を読んでから。
(この作品は、先のクリスティーの追悼文においても「彼女の最高傑作」と書かれています。)
そんなにすごく面白かった記憶はないのだけれど、読んでいくうちに何とも表現しがたい味わいがあって。
『クロエへの挽歌』や『屍衣の流行』でも感じた、この味わいを『葬儀屋の次の仕事』にも求めています。

なお、できるだけ出版された順番通りに読みたい私なので、これ以降の作品はまだ読んでいません#59142;
あと、『検屍官の領分』は『反逆者の財布』を読んでから読みたいので、積読中f^_^;
そこで、最後に以下の文章を引用しておきます。


(前略)…作風の変遷があることが、作家像をイメージしづらくしているのである。評価を改めるためには『判事への花束』(1936年。ハヤカワ・ミステリ)、『反逆者の財布』(1941年。創元推理文庫)を新訳で再び世に問う必要があるだろう。

家族の問題[新訳]解説

杉江松恋

ハヤカワ・ミステリマガジンNo.724(2017年9月号)より抜粋