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E・C・R・ロラックをご存じですか? [Mystery]

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2007/10/07追記
過去記事アップ特集でございます(^^ゞ
この記事についての補足ですが・・・。
『死のチェックメイト』どころか、『ジョン・ブラウンの死体』でさえ、9ヶ月たった今でも半分しか読めていません(苦笑)
テンポがのんびりとしていて・・・、刺激が少ないからなかなか前に進まん(__;)
(後から読み始めたマクロイの『死の舞踏』の方が、先に読了しちゃったf^_^;


E・C・R・ロラック。
・・・恥ずかしながらYuseum。知りませんでした(__;)
いや、もちろん名前は知っていました。
ミステリ・ファンの間ではかなり評価が高く、翻訳が待望されていることも知っていました。
しかし、興味がなかったので・・・。
というのも、E・C・R・ロラックに対して、つい最近までものすごい誤解をしていたので(__;)

ロラックになんとな〜く関心を示すようになったのは、Yuseumが今最も期待している出版社、「ドレミファ・ネット」の長崎出版さん(*^_^*)が、その海外ミステリ叢書"Gem Collection シリーズ"において、2007年1月始めに下の本↓(『死のチェックメイト』)を出すことを知ったからです。


で、ロラックについて少し調べてみたら、次のような評価が目に留まりました。
「E・C・R・ロラックはアガサ・クリスティーに匹敵する存在である。」
えっ?! クリスティー(?_?)
そして、以下の事実をようやく知って、ロラックに関する認識をかなり改めることになったのです。
(我ながら情けない・・・(x_x))

(1)E・C・R・ロラックは、英国女流本格ミステリ作家である。
・・・。
ずっと、ずうっと、男♂とばかり思っていました(__;)
いや、Yuseumが間違えるのも宜なるかな、で、ロラックが女性作家であることは長い間秘密だったのです。
当時の書評を見ても、"Mr. Lorac"と表記されていたくらいですから。

女性が男性的なペンネームで、作品を出版するのは珍しいことではありません。
(よくある理由としては、その方が売り上げが延びるだろう、という出版社の思惑から。)
例えば、『薪小屋の秘密』で知られるアントニー・ギルバード。
ただ、彼女の著作は読んだことがないのですが、A・ギルバードが女性であることは、結構前から知っていました。
おそらく、2006年初めに他界したマイケル・ギルバードには以前から関心を抱いていたから、彼のことを調べているうちにたまたま知ったのでしょう。

でも、ロラックは・・・(゜◇゜)
Yuseumはその名前から、なぜか次のような誤ったイメージを抱いていたのです(__;)
「E・C・R・ロラックは男性で、現代アメリカン・ハードボイルド、ないしはノワール作家である。」
・・・Yuseumが全く関心を示さない世界です。
Yuseumは、興味のあることについてはとことんまで調べるのですが、関心のないことについては露ほどの興味も示さないので、この間違った認識はつい最近までそのままでした。
血液型で言えば、Yuseumは典型的な・・・、まあそれはどうでもいいです(>.<)y-゜゜

「E・C・R・ロラック」の本名はイディス・キャロライン・リヴェット (Edith Caroline Rivett)。
その頭文字をとってE・C・R。
そして、キャロル(Carol)を反対から読んで、ロラック(Lorac)。
・・・なんて素敵なペンネームなんでしょう(!o!)

で、このような「コペルニクス的転回」がYuseumの中で起こったために、次のような事実も知るに及んだのです。

(2)E・C・R・ロラックとC・カーナックは同一人物である。
C・カーナックも名前だけは知っていました。
(もっとも、Cがキャロルであることは知りませんでしたが。)
新樹社の2005年の刊行予定ミステリの中に、

  • E・C・R・ロラック "Part for a Poisoner"

  • C・カーナック "The Double Turn"

  • の2作品がありましたから。
    (これらが未だに出版されず、長崎出版が先にロラックを出すとは思ってもいませんでした。)

    でも、この2人が同一人物だったとは(゜;)エエッ
    ・・・いやあ、「無知」とはホンマに恐ろしい(((( ;゜Д゜)))ガクガク

    で、早速以下の本を購入。
    (ロラックの翻訳は10年前にも出ているんです。)


    この本の解説を担当しているのは、「世界ミステリ作家事典」の編者として知られている森英俊さん。
    これを読むと、ロラックのことがかなり分かりました。
    (というか、ロラックはこの事典にも掲載されているのだから、おいYuseum。ロラックが女性であることぐらい知っておけよ(゜o゜)ヾ(--;))

    (3)E・C・R・ロラックは、アガサ・クリスティーに匹敵する存在である。
    この評価はロラックの作風を知るにあたって非常に重要であるし、またこのように形容されることは、英国ミステリ作家においてはかなり珍しいと思います。

    森さんの解説によると、イギリス黄金時代(だいたい1930年代)の女流作家の主流を占めていたのは、
    A. アガサ・クリスティーを筆頭とする、「トリックやプロットに工夫を凝らした謎解き」
    いわゆる「オーソドックスな謎解きミステリ」がこれに当たります。
    そして、
    B. ドロシー・L・セイヤーズを中心とする、「物語性や作品世界を重視したもの」
    で、Yuseumの個人的印象としては、読者のニーズはA., B.ともにあったと思われますが、作家として圧倒的に多いのはB.です。
    「英国女流本格ミステリ四天王」のあと2人、マージェリー・アリンガムナイオ・マーシュも、どちらかといえばB.ですし。

    更に言えば、現代では大御所であるP・D・ジェイムズやルース・レンデルを始め、ミネット・ウォルターズら英国女流作家たちは、
    「セイヤーズの再来」
    と呼ばれることに誇りを感じることはあっても、出版社が好んで用いそうなキャッチ・フレーズである、
    「第2のクリスティー」とか「クリスティーの後継者」
    という表現を忌み嫌う傾向が大変強く、
    「クリスティーは人物が描けていない。」
    と批判することが多いのです。
    (この批判は正しくもあり、ある意味では間違ってもいるのですが。)

    どうして、現代の英国女流作家がセイヤーズを賞賛し、クリスティーを非難するのかと言えば、第一に、現代は様々な問題を抱えているので、クリスティーの描くような「ヴィレッジ・ミステリやカントリー・ハウス物を書くことは困難で、人物描写ももっと奥行きのあるものが要求される」からです。
    クリスティーの描く世界は、<メイヘム・パーヴァ>と呼ばれたりもしますが、一種の理想社会であり、この「ぬるま湯」のような世界は現代には「存在しようがない」わけです。

    第二に、クリスティーの描く「オーソドックスな謎解きミステリ」は、既にクリスティー自身が頂点を極めており、この全世界で愛読されている<メイヘム・パーヴァ>を超えることは容易ではない、ことが挙げられるでしょう。
    クリスティーの描くようなミステリを書こうとすると、下手な作家であればどうしても二番煎じになり、埋没してしまうのがオチです。
    クリスティーとほぼ同時代で、A.に属する作家を挙げてみると、例えば、初期のエリザベス・フェラーズは、謎解きミステリにこの時代の作品としては珍しく「ユーモア」を盛り込み、さらにアントニイ・バークリーの諸作を彷彿とさせるような「迷」探偵の活躍を描くことで、クリスティーとは一線を画しました。
    そして、Yuseumの敬愛するクリスチアナ・ブランドは、「色気を出したエラリー・クイーン」と形容される「凝りに凝った華麗な文章、尋常でないもつれ方をした容疑者たちの性格と関係」(by 「名探偵の世紀」(原書房))、そして、これまたバークリーに通じるシニカルな表現で、寡作ながら独自の世界を切り開いたのです。

    一方、アメリカの女流作家については、昔も今もコージー・ミステリーが盛んなお国柄です。
    クリスティーにもコージー的な側面がありますが、基本はやっぱり「本格ミステリ」。
    スタンスが異なるわけです。

    話がやや脱線してしまって申し訳ないですが、要するに、ロラックが「クリスティーに匹敵する」と称えられることが、海外では結構珍しいことがおわかりになったでしょうか?
    (日本は別です。日本には、「和製クリスティー」と呼ばれる女流作家はたくさんいますからね。)

    森さんが解説するロラックの作品の主立った特徴を挙げてみましょう。
    1)オーソドックスなまでの本格ミステリであること
    これは先に示したとおりですが、彼女はアリバイ・トリックが大のお得意という、女流作家には珍しい特徴を有しているようです。

    2)文章が達者で読みやすく、独特のムードやリズムがある
    クリスティーのように文章が平易であり、かつマーシュのように文章が流暢ですらすら読めるわけです。

    3)情景描写、地方の小都市やヴィレッジの描写のすばらしさ
    英国独特のヴィレッジ・ミステリや、クイーンのライツヴィルものが好きなYuseumにとっては、この特徴はたまりません(^u^)

    さて、このようにE・C・R・ロラックは大変魅力的な本格ミステリ作家であることが分かるのですが、ではなぜ、本格ミステリの土壌が培われている日本でほとんど作品が紹介されていないのでしょうか?

    海外でもかなりマニアックで著作が入手困難である、という事情もありますが、実は、今から50年前にロラックの作品は日本に初紹介されています。
    『ウィーンの殺人』Murder in Vienna がそれですが、これが森さん曰く、
    「彼女の七十一冊のミステリのなかでも最悪の出来ばえ」(^_^;

    海外の作家が日本に初紹介されるとき、おそらく版権のお値段が高いことが要因だと思うのですが、最高傑作と呼ばれる作品は後回しにされて、それより少し劣る2番手、3番手の作品が先に出版されるというのは、翻訳作品ではよくある話です。
    そして、その初紹介作品が目も当てられないような駄作であったりすると、当然売れないわけですから、出版社も続いて同じ作家の作品を翻訳出版したりしない、ということもよくある話です。
    こういった事情で、日本では埋もれた存在のままとなった海外の有名ミステリ作家がいかに多いことか(__;)

    ただ、10年前に国書刊行会から出版された『ジョン・ブラウンの死体』は、彼女の最高傑作とは言わないまでも、「あざやかな情景描写とヴィレッジ・ミステリの魅力に満ち、シンプルかつ巧妙なトリックが心地いい」ビブリオ・ミステリであり、ロラックの佳作です。
    実際、現在ロラックがミステリ・ファンの間で好評なのは、これが出版されたことによるものと思われますが、じゃ、なぜこれがそれほど浸透せずに、ロラックの作品がさらに10年間も翻訳出版されなかったのか?

    Yuseumが思うに、ひとえに、
    この作品のタイトルが地味すぎるから
    に他、ならないでしょう。
    (まあ、そんなことを言っても、原題も"John Brown's Body"とそのままですから、仕方ないのですが・・・。)
    この作品とほぼ同時期に刊行された、国書刊行会の「世界探偵小説全集」第2期の他の作品と比較してみましょう。

    例えば、『赤い右手』というタイトルは、何となく興味をひかれませんか?
    (だって、普通の人の右手は赤くないですから(^_^;))
    『編集室の床に落ちた顔』にもそそられません?
    (顔が床に落ちるなんて(!_+))

    もちろん、タイトルが地味でも、それなりに作者が知られているバークリーの『地下室の殺人』や、マーシュの『ランプリイ家の殺人』なら、Yuseumも買ってます。
    しかしながら、他にも『カリブ諸島の手がかり』『ハムレット復讐せよ』『空のオベリスト』など、蒼々たる顔ぶれが揃った「世界探偵小説全集」第2期において、過去に1冊(しかも駄作)しか翻訳出版されていないロラックの『ジョン・ブラウンの死体』というタイトルは、あまりにも目立ちません。
    で、Yuseumはうっかり見過ごしてしまいました。(と、言い訳(-""""-;))

    ちなみに、ここに挙げた作品はYuseumの買った本というばかりでなく、自分でもかなり驚いたことに、ほとんど読んでいるんです。
    (しかも、さらに驚愕したことに、読んだ本については全て「Yuseumの感想」ホームページにアップしている!
    ・・・って、驚くなよ(^_^;)\(・_・) )
    このシリーズが刊行された時期は、ちょうどYuseumが海外古典ミステリに目覚めた時期だったので、読書意欲が大変旺盛だったのでしょう。
    「積ん読本」ばかりの今では、ちょっと考えられません(‥ゞ

    あと、ロラックの作品の特徴として、
    4)シリーズ探偵は没個性的
    というのも影響したのでしょう。
    これは、ロラックが書けなかったというより、注力しなかったということらしいですが、ポワロやミス・マープル、ピーター・ウィムジィ卿といった個性的なキャラに比べると、見劣りしたのでしょう。
    (ちなみに、彼女のメインのシリーズ探偵はマクドナルド警部(のちに警視)。)

    ま、話がかなり長くなってしまいましたが、今度出版されるロラックの「新作」、『死のチェックメイト』Checkmate to Murder は、これも彼女の最高傑作ではないにしろ、「ドラマティックな幕あけの作品で、お得意のアリバイ・トリックもきまっている」佳作ですし、なんといってもタイトルにミステリアスな響きがあって、魅力的ですf(^ー^;
    中小出版社なので、それほど市場に出回らないのでは? という危惧もありますが、この作品が好評でそこそこ売れて、さらに新樹社が刊行を予定している2作品(大幅に遅れているけど、企画はまだ立ち消えになっていないはず!)を早いこと出版していただければ、それらが起爆剤となって、今後ロラックの諸作が次々に翻訳される可能性はあるでしょう。

    それに10年前の状況を顧みると、バークリーやセイヤーズはようやく日本でも本格的に紹介された頃だし、その頃はアリンガムやマーシュの代表作も未訳ばかりだったし(今でも多い)、フェラーズに至ってはほとんどの作品が日本未紹介でしたからね(今でも彼女の中・後期の作品はかなり未紹介)。
    ロラックの翻訳もこれからでしょう。

    みなさんも、E・C・R・ロラックの諸作を読んでみませんか?
    (とりあえず、Yuseumは『ジョン・ブラウンの死体』を読んで、『死のチェックメイト』も読んでみようと思います。)
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    コメント 2

    ecco

    私はぜんぜん知りませんでした。
    このところ本をちっとも読んでません^^;
    本屋さんでじっくり本を探すこともなんだかしてませんね~
    Yuseumさんは一日本屋さんで過ごしても
    平気なんじゃないかしら・・・?
    by ecco (2007-01-07 11:17) 

    ゆーじあむ

    僕もここ数ヶ月は1ヶ月で1冊も読めない日々が続いていましたが[うーむ]、故郷に帰省したら、なんと5日足らずで3冊も読めちゃいました( ^)o(^ )
    読書環境は重要ですね[ぴかっ]
    by ゆーじあむ (2007-01-08 11:30) 

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