クリスティー文庫『ゴルフ場殺人事件』は抄訳? [アガサ・クリスティー]
1年3ヶ月も温めていたブログ記事を、いよいよ公開することになりました\(^O^)/
・・・とはいっても、そんなに大したものではない、むしろマニアックな記事ですけれど
でも、自分では「いつまで下書き状態で放っておくのか」とすごく気になり、3年近くは放置していたのでは、と思い違いしていたほどですσ(^◇^;)
そして、昨日はこの記事を2時間もかけて書き上げた瞬間に、(下書き保存していなかったので)記載内容が全て吹っ飛びました
・・・因縁のブログ記事に再度挑戦
今日は、下の「名探偵DVDコレクション」も出版されますからね。
ブログ記事化するにはよいタイミングです
名探偵ポワロDVDコレクション 2011年 9/6号 [雑誌]
- 作者:
- 出版社/メーカー: デアゴスティーニ・ジャパン
- 発売日: 2011/08/09
- メディア: 雑誌
今号は『ゴルフ場殺人事件』The Murder on the Links。
デヴィッド・スーシェのシリーズでは、双子設定が1人になっていたりするなど、一部改変がありますが、ポワロとジロー警部の推理対決もあったりするなど、なかなか面白い作品です。
なかでも、Yuseumの大好きなところはラストシーン
ヘイスティングス大尉のファン(特に女性)は複雑な気分でしょうが、<パパ・ポワロ>が堪能できる美しいシーンです
いつものように吹き替えが気になる方は、こちら↓での視聴をどうぞ
さて、この原作ですが、
によれば、ハヤカワ・クリスティー文庫の田村隆一訳は、
「若干短い抄訳」
と書かれています。
(なお、旧版のアガサ・クリスティー (ミステリ・ハンドブック)では、「1割ほど短い抄訳」と書かれていました。)
最近、この記事でも触れましたように、クリスティー文庫の『ゴルフ場殺人事件』は田村義進さんの新訳が出版されました。
今回は、この新訳版(以下、「新ク」と略)と、田村隆一さんの旧訳(以下、「旧ク」と略)、
の翻訳について、アガサ・クリスティー ミステリ・ハンドブックでは「完訳」とみなされている創元推理文庫版(中村能三訳)、
と比較してみることにしてみます
Yuseumが見つけた限りでは、以下の2カ所の訳が両方のクリスティー文庫で抜けていました。
(1)新ク:第13章 不安そうな目をした娘 の冒頭(p.176〜178の4行目)
旧ク:第13章 心配そうな眼をしている娘 の冒頭(クp.198〜200の9行目)
この部分、創元推理文庫版(不安そうな眼をした女)ではポワロとヘイスティングズのやりとりが、もう少し詳しく描かれています(創p.162〜165の15行目)。
例えば、ヘイスティングズが結婚の際に家柄とか育ちにこだわることが書かれていたり、ヘイスティングズが「シンデレラ」に二度と会いたくない、という気持ちを描写している段落があったり、ポワロがヘイスティングズにぴったりのお嫁さんを世話すると言った後、「イギリス人は方法をまるっきり持っていない。万事その場まかせだ!」と呟いたりするシーンが、両方のクリスティー文庫ではカットされています。
その後、「シンデレラ」がオテル・デュ・ファールに泊まっていると、ヘイスティングズがポワロに告げる部分は同じなのですが・・・。
(2)新ク:第18章 ジローの奮闘 の冒頭(p.230)
旧ク:第18章 ジローの活躍 の冒頭(p.260)
クリスティー文庫では、いずれもポアロはいきなり別荘(屋敷)に着いていますが、創元推理文庫版(ジロー、活躍す)では、ヴィラに着く前にヘイスティングズが、ポワロが何の相談もなくオテル・デュ・ファールを嗅ぎまわったことに対して文句を言い、それについてポワロが謝るシーンが描かれています(創p.213〜214の4行目)。
この翻訳の違いは、おそらく用いた底本の違いによるものと思われます。
新クには、「翻訳の底本にはHarperCollins社のペイパーバック版を使用」とあります。
The Murder on the Links (Poirot)
- 作者: Agatha Christie
- 出版社/メーカー: HarperCollins Publishers Ltd
- 発売日: 2001/06/04
- メディア: ペーパーバック
これは、アガサ・クリスティーオフィシャルサイトでも以下のURLで紹介されている本。
また、FREE DOWNLOAD MECHANICAL ENGINEERING BOOKSというサイトにある、この作品のPDF(英文)も確認してみましたが、創元推理文庫版に相当する表現はありませんでした。
つまり、創元推理文庫版の底本はおそらくクリスティーがこの作品を書き上げた最初期のものを使用しており、その後、何らかの理由で記載内容に一部変更(削除)が行われ、今のクリスティー文庫のような記述になったものと推測されます。
残念ながら、創元推理文庫版の底本がどれかは、判断できませんでしたが(..;)
しかし、話は変わりますが、今回、新旧クリスティー文庫を比較してみて初めて気づきました。
全然違いますね
本の重さが(゚ロ゚屮)屮
全く同じ作品で、クリスティー文庫なので同じ装丁、同じ行数、同じ文字の大きさのはずなのに、旧クは1章1章が少しずつ長い傾向にあり、旧クは新クに比べて、最終的に約50ページも長くなっています。
ざっとしか読んでいませんが、新クの田村義進さんの訳は比較的簡潔な文章で翻訳されているような印象。
旧クの翻訳者である田村隆一さんは詩人でもありましたので、その叙情的な文章が評価されたりする一方、あまり英語は得意でなかったようで、誤訳・悪訳が多いと酷評されたりもしています。
田村隆一さんは一時期、早川書房に勤務されていたこともあり、クリスティー作品の翻訳も非常に多く手がけていました。
そこで、昨年から始まっているクリスティー文庫の新訳シリーズは、目的の一つに、
田村隆一訳からの脱却
がある、と個人的には睨んでいます( ̄ー ̄)ニヤリ
さらに言えば、2003年にクリスティー文庫が創刊された際、旧ハヤカワ文庫では田村隆一訳であった、『スタイルズ荘の怪事件』、『アクロイド殺し』、『ビッグ4』、『青列車の秘密』、『三幕の殺人』、『ABC殺人事件』、『ゼロ時間へ』の7冊が新訳化されています。
まあ、それを「歓迎」とみるか「残念」とみるかは、人それぞれだと思いますが・・・。
それでも、まだ7,8冊は田村隆一訳のクリスティー文庫があるのだから、田村さんってクリスティーもいっぱい翻訳されてたんですね(._.)φ
ちなみに蛇足ながら、今回のクリスティー文庫の新訳シリーズのうち、3作品は旧訳が中村能三さん(創元推理文庫の『ゴルフ場の殺人』の翻訳者)。
まあ、この新訳化の流れは仕方がないですね。
1年ほど前に、旧クリスティー文庫の『オリエント急行の殺人』(中村能三訳)を読んだとき、あまりの訳の古臭さにYuseum、辟易しましたから(^^ゞ
もちろん、過去の時代の翻訳にも味わいがあるものもあります。
新訳でも自分のイメージと違うときもありますから、翻訳って面白いですね
これは深い!
いや僕なんかはもう所持しているから・・・という
事で、新訳本は購入してなかったです(汗
ホームズものも近年多く新訳が出されてますよね。
こちらもやはり違うんでしょうね。
(ちなみに僕は新潮文庫)
by コースケ (2011-08-10 22:47)
興味深い記事です。復活してよかった~(´▽`) ホッ
わたしが読んだクリスティーも、何冊かは田村隆一訳だったと思います。
翻訳本は訳者によって、全然印象が違いますよねー。
文章は美しいのに誤訳がある翻訳と、
原文に忠実だけど読みにくい翻訳と。
自分は学者ではないから、たぶん前者をとってしまうだろうなぁ。(笑)
by チヨロギ (2011-08-13 11:00)
>コースケさん、ありがとうございます[にこっ]
クリスティーは、もともと創元推理文庫のひらいたかこさんのカバーイラストが好きだったので[はぁと]、主に創元で読んでいて、創元にない作品はハヤカワ文庫で読んでいたんです。
それが、8年前にハヤカワさんがクリスティー文庫を創刊したので、集め直したんですね(;´∀`)
それで、いくつか訳の内容に違いがあるのに気づいたんです[えーっ]
ホームズもいくつかの翻訳で持っています。
新潮文庫の延原さんの訳は、NECのCD-ROMで持っているんですが、このCD-ROM。最近の新しいパソコンではほとんど再生できないから、そろそろ更新して欲しいな[・・・]
>チヨロギさん、ありがとうございます。
2時間かけて書き上げたものが消えてしまった日は茫然自失でした[さーっ]
新訳も当たり外れがあって、
「え〜、この人にこんな言葉使いをさせるの[むむっ]」
とかありあすからね。
何でも新しければいいわけではないところが、翻訳本の面白いところです(^^)
by Yuseum (2011-08-13 15:41)