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ヘラクレスの難業(名探偵ポワロ) [アガサ・クリスティー]

「名探偵ポワロ」も残すところはあと2作となりました。

名探偵ポワロ - NHK

ヘラクレスの難業 The Labours of Hercules
ポワロは世界中で美術品を狙う窃盗犯で殺人鬼のマラスコーを捕まえるおとり捜査に参加。だが計画は失敗し、若い娘が餌食になる。3か月後、自責の念に駆られ仕事復帰できずにいたポワロは、偶然出会った青年の消えた恋人を見つける約束をする。彼女は有名バレリーナのメイドで、主人の療養でスイスに連れていかれたという。ポワロが向かったアルプス山中のホテルでは、なんとマラスコーを捕まえる国際的な捜査網が敷かれていた。


原作はこちら( Kindle版[左斜め下]

ヘラクレスの冒険 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

ヘラクレスの冒険 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 作者: アガサ・クリスティ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/09/16
  • メディア: 文庫

原作は、引退を考えているポワロさんがギリシャ神話の「ヘラクレスの12の難業」を読んで、これにちなんだ12の事件を解決してみせよう、というところから始まります。
ヘラクレスの難業|名探偵ポアロがスキ。などをご参照。)
ヘラクレスを気にするのは、彼のクリスチャン・ネームであるエルキュール Hercule がヘラクレスのフランス語読みだからです。
そういうわけで、原作は12の連作短編集なのですが、それを1本のドラマに仕上げたということで、どうなっているのか気になるところ。

今回のドラマでは(原作にも登場しますが)ポワロさんにとっての「あの女性(ひと)」ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人も再登場します。
伯爵夫人が登場するのは『二重の手がかり』以来ですが、その時の女優さんキラ・マーカムに代わり、今回の女優さんはオーラ・ブレイディ
『二重の手がかり』との整合性はどうなっているのかな?
(なお、名探偵ポワロにおいては『メソポタミア殺人事件』にて、ポワロさんがロサコフ夫人に呼ばれて会いに行ったけれど夫人はいなかった・・・という、原作にはないエピソードがあります。)

あと、今回のドラマには『呪われた相続人』The Lemusurier Inheritance という、今までなぜか映像化されていなかった原作短編の要素も組み込まれているとのこと。
拙ブログの※覚え書き※をご参照。)

こんなに色々な要素が盛り込まれた今回のドラマの監督は、名探偵ポワロ3作目のアンディ・ウィルソン。(『ナイルに死す』『満潮に乗って』
そして、脚本は4作目のガイ・アンドリューズ。(『青列車の秘密』『満潮に乗って』、『死との約束』)
・・・原作の改変には定評のある方です(苦笑)(そして、概してその評判は悪い。)
しかしながら、今回のドラマはどう考えても原作改変必至(原作に忠実な形で12 or 13の短編を90分のドラマにするのは不可能)なので、そのあたりは割り切って楽しむことに。
最終話『カーテン』の1つ前の作品、であることもポイントになると思われます。

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・・・なんか、しんみりしてしまいました(;´Д`)
なんとも、やりきれません。。。

まず、原作がどのように組み込まれたのか整理してみましょう。
このドラマの核となる事件は、(窃盗犯で)殺人犯であるマラスコーをアルプス山中で捕まえようとする事件で、これは原作第四の事件『エルマントスのイノシシ』から。
ポワロさんがアルプスに向かうきっかけとなったテッド・ウィリアムズ青年の消えた恋人を見つける事件は、原作第三の事件『アルカディアの鹿』から。
外務次官のハロルド・ウェアリングがアルプスのホテルでライス夫人とエルシー・クレイトンの2人の姉妹に出会い、エルシーの夫の仕打ちに対して義憤に駆られるのは、原作第六の事件『スチュムパロスの鳥』から。

この3作品がストーリーの中心となっており、その他、名画の盗難に関するトリックについては原作第九の事件『ヒッポリュテの帯』より、そして、ロサコフ伯爵夫人とその娘(ただし、原作では「義理の娘」)アリス・カニンガム、犬は原作第十二の事件『ケルベロスの捕獲』由来です。

また、ドラマ冒頭でルシンダ・ル・ミュジュリエ(Lucinda Le Mesurier)が殺されますが、彼女のファミリー・ネームは未映像化短編『呪われた相続人』The Lemusurier Inheritance (原題を直訳すると「リムジュリア家の相続」)から拝借したようです。

他にもヒドラ退治の絵画(原作第二の事件『レルネーのヒドラ』)など、原作に関連するアイテムやシーンはいくつか見つかるかもしれません。
例えば、ケーブルカー(フニクラ)でポワロさんとロサコフ伯爵夫人がすれ違うシーンは、原作『ケルベロスの捕獲』での地下鉄のエスカレーターで2人がすれ違うシーンを想起しますし。

そのロサコフ伯爵夫人は、今回はどちらかといえば原作に近い豪快な性格でしたね。
そのため、ドラマの『二重の手がかり』に出てきた伯爵夫人とはやや異質感がありました。

ポワロさんがサウナや蒸気の部屋に嫌悪感を抱いている感じだったのは、(これまたドラマの)『白昼の悪魔』における苦い思い出から来るのでしょうか(^Ω^;)
あと、(69作目にして初めて?)ポワロさんが自分のことを三人称で呼ぶことに【ツッコミ】を入れる方がでてきましたヾ(゚Д゚ )ォィォィ
それに対する明確な回答(「標的との間に安全な距離を保つため」)に納得[ひらめき]
(原作にもどこかに記載があったかなぁ?)
そして、なんと短波無線が出てきました(「ポワロは機械も得意」だって[exclamation&question]
原作では日光反射信号で通信するシーンがあるので、実は短波無線にも通じているのかなf^_^;

以下、本作のネタバレにつながるので、これから下の文章を読むときはご注意を[exclamation]

 

 

アリス・カニンガムをロサコフ伯爵夫人の「実の娘」とし、さらに「殺人鬼」にしたことで、ポワロさんとロサコフ伯爵夫人の関係は原作とは正反対の結果になってしまいました(´д`)

原作『ケルベロスの捕獲』では、アリスは、殺人こそ犯していないものの麻薬取引という忌むべきもの(麻薬は人間に不幸と苦しみと堕落をもたらすもの)に手を染めていたのですが、「かわいいアリス」は「義理の娘」であったため、ロサコフ伯爵夫人は自分と息子を救ってくれたポワロに対して感謝します。
しかしながら、今回のドラマにおいてロサコフ伯爵夫人は(自分に銃を向けたにも関わらず)アリスを見逃してくれるよう、ポワロに頼みます。
ただ、拙ブログで長々と考察したように、エルキュール・ポワロという人物は窃盗犯を許しても殺人者に対しては容赦がない。

「私は法律ではありません。」
「彼は・・・ポワロ」


そして、これまでにも「結婚を犠牲にしてすばらしいキャリアを築き上げ」てきたように、ロサコフ伯爵夫人を愛しく思いながらも、彼は今回もそれまでの自分の信念を貫いたのです。

・・・うん。次回の『カーテン』のために、それがやりたかったのは分かるよ。
分かるけれど・・・、切ない。。。


さて、来週はいよいよ『カーテン〜ポワロ最後の事件〜』。
いよいよ、その時がやってきます[もうやだ~(悲しい顔)]

実は、この作品も1年前我慢できずに某所にて原語で見ました(..;)
皆様の楽しみをそぐ真似はしませんが、こちらの曲だけ紹介しておきます。

ショパン作曲;24の前奏曲 作品28 第15番 変ニ長調 ≪雨だれ≫


 

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Jyuki

こんにちは。先日TwitterでフォローさせていただきましたJyukiと申します。初めてコメントをさせていただきます。
ポワロのお話がしたくて、ネットでブログ検索をしていて、ポワロ同盟様よりこちらのブログにたどり着きました。
盛りだくさんのポワロのお話、ワクワクしながら読ませていただいています。
今回の「ヘラクレスの難業」、原作の12の短編を、どうやって90分ドラマにおさめるのか?と、とても楽しみにしていました。
見終わった後、もう一度原作本開いて見直したところです。
今日の記事のアップ、朝から楽しみに待っていました。
とても勉強になります!素敵なブログに巡り合えて幸せです[にこっ][にこっ]
by Jyuki (2014-09-30 20:27) 

Yuseum

Jyukiさん、コメント&Twitterのフォローありがとうございます。
この数年、頭の中はポワロでいっぱいだったので(^^;;、ようやくファイナルシーズンが日本でも放映されたので久しぶりにブログを更新中。
お褒めの言葉、嬉しいです(^^)

来週でいよいよ最後ですね[えーっ]

by Yuseum (2014-09-30 23:31) 

あこ

こんにちは。
待ちかねていた今回のファイナルシーズンについていろいろ思うところありましてサイトを
検索していたところ、こちらのブログにおじゃまするととなりました。
さっそく拝見しておりますが、ポアロ好きの私にはもっと早く知りたかった~というすばらしい内容!

なんとなく消化不良気味のファイナルシーズンではありますが、こちらのブログに出会ったことに感謝し、全作品来たる「カーテン」に臨みたいと思います♪

by あこ (2014-10-04 11:58) 

Yuseum

あこさん、こんにちは。
コメントありがとうございます[わはっ]
お褒めの言葉、嬉しいです(^_^;)
いよいよ『カーテン』ですね。
自分も万全の体制で臨みたいです[おんぷ]
by Yuseum (2014-10-05 14:30) 

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